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梨木香歩『雪と珊瑚と』 先日、母ちゃんこと私、なかなかにショックなことがありました。 夕方、保育ルームに子を迎えに行ったら、なにやら他の子と話してたんです(まだ意味のある言葉喋れませんが)。よく見ると、ウチの子がその子に話しかけては「嫌、嫌」って言われてる。もうはっきり、「あんた、嫌」って感じで。 うろたえる母ちゃん(私)。玄関先で「と、とりあえず靴はかせてね」とオタオタするも、その間もずっと「嫌、(この子)嫌」って感じで責めてくる。おわー、何があった。そこへその子のお母さんも登場して、私と同じくらいオタオタして「嫌じゃないの!」と子の口をふさぐという事態に。いやーハッキリ拒絶されてましたね、ウチの子。 なんかショックでしたねー。その子に嫌って言われたことがショックなんじゃないんですよ。というのも、その子はお友達のお姉ちゃん(一緒に迎えにきてた)なのでキャラもよくわかんないし、ウチの子がなんかしたのかもしれないし、1歳と2歳のやりとりだし、ほんとのところは親にはよくわからん。 それより、「ああ、集団生活ってこんなことあったなあ」って思い出したんです。誰かに嫌われたり、突然拒絶されたり、冷たくされたり、無視されたり。意味もなく、遊びのように、私もやったし、やられたし。いじめとかじゃなくてね。なんかそりが合わないとか、たまたま今日は虫の居所が悪いとか、そういう気分的なやつ。ていうか、「なんかあの人、嫌」っていうの、今でもあるし。でも大人になると「関わんなきゃいーや」って思うので、そこまで気に病むこともなくなって。でも学校生活、とくに中学あたりでは、そんなイザコザとマトモに向き合ってた気がするなあ。 そういうの、この人これからやるんだなあ……と子を見てたら、心底「おつかれ」って思っちゃったんですよね。それは生きてく以上ぜったい避けられないことだし、自分で対処法見つけなきゃいけないことだと思うんですけど。でも「嫌」って言われてもキャッキャできる今のバカっぽさ、いいよな……。ってしんみりしながら、ボックスティッシュ5箱159円を買って帰りました(底値更新!)。 そんな母ちゃんやってる私に「響くと思うよ」って、ライターの大谷さんが貸してくださった梨木香歩の『雪と珊瑚と』。シングルマザーの珊瑚と幼い雪をめぐる物語です。ダンナも金もなく、子を預けるアテもない珊瑚が、「子供預かります」というひとりの年配女性と出会い、人生を切り開いていく。カフェを作ろうとする珊瑚に対して、多くの親切の手も差しのべられる。おいしそうなごはんと豊かな草木の描写が梨木さんならではです。 幼いころ、親に食べ物もなにも与えられず放っておかれた珊瑚は、すごく客観的に自分を見てるんですよね。冷静で、自分の望んでいた場所を作ろうと、努力もする。でも最後の最後で、ほころんじゃうんですよね。ある日、知り合いから「私はあなたが嫌いです」という手紙をもらって。 さらのそのころ、雪の寝ぐずりが始まる。精神的にも体力的にも限界がきて、泣きわめく子をひとり部屋に残して、別の部屋に避難する。「立派な虐待だ」と思う。でもこれ、ほとんどの母親がいちどはやったこと、あるんじゃないですかね。私はやった。その後の子の様子も含め、ここは胸がつまりました。 で、ここで珊瑚の中の何かが決壊して、物語が大きく動くんですが、このふたつのエピソードが私には響きましたね。で、物語だからこそ思えるのは、「私はあなたが嫌いです」と言われるのも悪くないってこと。 わざわざ「嫌い」とか言うなんてヒマなことしてんじゃねーよ、って思うけど、これって言うほうもけっこうなモチベーションがいると思うんですよ。自分を振り返って考えると、やっぱり主に嫉妬が原因じゃないですかね。もちろん、「嫌い」と言われたほうも、めちゃめちゃ体力使う。考えてもしょーがないことグルグル考えて、いっぱい時間ムダにして。あー、私を嫌ったアイツもアイツも、みんな今ごろ何してるのかなあ。 でも、そういう経験ってけっこう衝撃デカいから、なんかの転機になることも多かったりして。ナニクソと思ってがんばれたり、思いがけない誰かに救われたり。なんつって、今だって誰かに「嫌い」とか言われたら、ぜったいキレますけど。でもまあ、いい経験になることもあるよね、と思ったりします。 でもそんなことを、これから嫌ったり嫌われたりして悩んで生きてく娘にいくら言ったところで、きっと意味ないんですよね。「嫌いって言われても、言ったほうにもいろいろのっぴきならない事情があってだろうから(もしくはヒマなだけだから)、あんま気にすんな」って言ってあげたいけど、そんな親の言葉が響かないっていうことも、自分の経験を振り返ればわかるし。 いろいろあるよねー。って、一言で言えば、そういうことなんですけど。でも『雪と珊瑚と』は最後、そのいろいろを、雪ちゃんがざーっと鮮やかに書き換えてしまう。子供にはそういうちからがあるってこと、子を持つまで知らなかったです。いろいろあるよねー。
by reiko.tsuzura
| 2013-01-19 13:31
| 本
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