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『トゥルー・ストーリーズ』 ポール・オースター著/柴田元幸訳 日本独自編集のエッセイ集です。 タイトルどおり、オースター自身の日常や 彼の周りの人々の間で起こった“ホントの話”が つらつらと綴られています。 とはいえ、そこは小説家。 彼の言葉を借りれば 「およそありそうもない、確率を無視した出来事」が どんどん起っては、偶然が偶然を呼ぶという なんともエンタメな日常が繰り広げられています。 たとえば生涯をかけて探していた絵が マンションの一階上の壁にかかっていたとか、 ネコの治療費が出せなくて途方にくれていたら事故に遭い、 相手に掴まされた示談金がきっかり手術代と同じだったとか。 しかもその語り口がいかにも作家らしく、いちいち大げさでおもしろい。 ちょっとした偶然でこんだけ盛り上がれたら、人生楽しそうだよな~。 なかでも「その日暮らし」という長めのエッセイでは、 若い頃いかに貧乏だったか、どれほど食うに事欠いていたかを そりゃーもう執拗に切々と語っています。 その鬱々なムードを見るかぎり、どうやら 本人はいたって真剣に“偶然の人生”を受け入れてる様子。 その一方で、文学かぶれな頭でっかち青年だったことを演じてるフシもあり。 このへん、若い頃の話を書いていると感性も若返るのか、 それともパフォーマンスなんだか、なんなんだか…… うさんくさい人です。 それにしても読んでるうちに、よくもまあこんだけ 身の周りに偶然が集まってくるもんだと感心しますが、 よく考えてみれば彼が語るような偶然って けっこう誰の日常生活でも起きてるものかもしれません。 というか、だいたい私の人生って、友人関係と仕事に関しては そういう偶然の産物なんでは……って気もしてきたり。 ただし、 ■そういう偶然を偶然と気づけるのか ■その偶然をちゃんと覚えているか ■そこに何らかの意味を欲しいと思うか という3点をふまえて生きてる人は多くない。 たいていが「世間って狭いねー」で済む話だからね。 でも、そんなことにいちいち立ち止まって考え込んでしまう人が、 オースターのようにケッタイな小説を書くんですね。 うーんナルホド。
by reiko.tsuzura
| 2004-12-09 23:36
| 本
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