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『フェッセンデンの宇宙』 エドモンド・ハミルトン著/中村融訳 SF作家、ハミルトンの短編集。 といっても私は普段SFなんて読みませんから、 ハミルトンの小説自体初めてです。 でも、すーごくおもしろかった! これはSFというよりおとぎ話でしょう。 しかも、とっても美しいおとぎ話。 どの短編もグッとくるものばかりだったんですが、 私はとくに「向こうはどんなところだい?」という話がお気に入り。 火星探検隊の一員だった男が、任務を終えて故郷に帰るお話です。 彼は火星で大きな事故に遭い、仲間のほとんどを失ってしまう。 だから亡くなった仲間の家族に遭い、その最後を告げるために 短い旅をするのです。 もはや彼にとって宇宙とは、壮大な夢ではなくて、 命をおびやかす狭くて暗い宇宙船の恐怖でしかない。 だけど地球にいる人々は、彼のことをヒーローだと思ってる。 だから彼は、みんなに嘘を告げてまわるのです。 亡くなった仲間の家族には、彼らがいかに勇気を持って、 いかに安らかに死んでいったのかを告げる。 故郷の人々には、宇宙がどれほど美しく壮大だったかを告げる。 でも彼の心のうちだけで語られる現実は、とても酷く惨め。 それを語ることのできない飛行士の胸のうちが やけにリアルで、せつないストーリーでした。 あとは生きた“風”に育てられた少女の話「風の子供」もよかった。 この少女は狼少年のように、長い間たったひとりで、 意思を持った風と暮らしてきたんですね。 そこにある男が現れて、少女に恋をして、ふたりは愛し合う。 男はにわかに生きた風の存在を信じられずに、 少女を自分の故郷へ連れて行こうとする。 そんなふたりを、風が引き裂こうとするお話です。 一見ロマンチックなんだけど、 風にとって人間なんて、ひとひねりで殺せる存在だから、 読んでてけっこう恐ろしいものがありました。 ほかにも小さな小さな宇宙を作りだしてしまった科学者の話や、 どちらが夢か現実かわからなないほど鮮烈な夢を見て ふたつの人生を生きる男の話などなど。 べつに題材がものすごく個性的というわけではないんだけど、 描写が豊かだから、物語に引き込まれちゃう。 宇宙だのファンタジーだのを書いてると見せかけて、 ただの人間を書いてるから、おもしろい。 久々に、小説の醍醐味を味わった感じです。
by reiko.tsuzura
| 2004-12-01 22:12
| 本
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