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『ブライトン・ロック』 グレアム・グリーン著・丸谷 才一訳 いやー、青春小説でした。いやいや、青い春だった。 なぜ今どきグレアム・グリーンを読んでるのか? それはね、今習ってる英会話の先生がブライトン出身だからです。 えぇっ、それだけ!? ま、私の読書の動機なんて、いつもそんなもんですよ……。 (写真は原書だけど、私が読んだのはもちろん翻訳本。早川書房刊) 舞台はもちろん、イギリスのブライトン。 この行楽地で白昼のさなか、ある殺人が起こります。 犯人は、ピンキーという不良少年。 彼はまんまと警察をあざむき、事件は迷宮入りに ……となるはずが、殺された男とホンの数時間だけ関わった女性が なぜかすごい執念で事件の解明に乗り出します。 次第に暴かれる真実と、ほつれだす少年の完全犯罪。 少年は罪を隠すため、次々と新たな罪を重ねていきます。 傍若無人な17歳の少年は、 女の子を脅すために硫酸のビンを持ち歩いているようなヤツだけど、 酒とセックスと大人を憎みます。 この世に当然な顔をしてのさばっている 「何か」を知らずにいることが、何よりも怖いのです。 そしていつか年をとり、それに流されていくだろう自分が憎い。 彼はセックスのことを遊び(ゲーム)と呼びますが、 これを憎むのは、その得体の知れない何かが、 これからずっと続いていくことを示唆しているから。 男はけっきょくこいつに襲われるのだ。むっとする部屋、目を覚している子供たち、そしてもういっぽうの寝台でおこなわれる土曜の夜のいとなみ。何とかして……逃れるすべは……誰にもないのだろうか? その為になら世界中の人間をみな殺しにしたってかまわない。 どーですか、この少年の青い春ぶりは!! こんな恐怖に囚われてしまった彼は、どんなに人殺しを重ねたって 結局はかごの中のネズミ。逃れることなんてできません。 でも正直に言えば、別に男じゃなくたって、そいつには襲われますよ。 私にだってあるよ。この世をつなぐループ&ループな螺旋階段に 自分がちょこんと乗っかってることに気づいたときの違和感。 女は子供を生むから、取り込まれてる感は余計に強いよ。 だから、そういう感覚って誰にでもあるんじゃないのって思うんだけど、どうでしょう。 誰も、少年のように暴走しないだけでさ。 あぁでもどうなんだろう…。 高校時代から「夢はお嫁さん、子供を生むこと」って言う友人も けっこういたことを思えば、最初から受け入れられる人だっているのかも。 (私はつねに、そういう友人を見て「すげーな」と思ってたクチ) でもおもしろいことにね、そういうループに取り込まれる違和感って 年々薄れていくんですよ。 まぁ周りが結婚したり、子供を生んだりで、 薄れていくというよりは、実感していってるのかもしれませんが。 とにかく、何かに慣れていく自分ってのもまた、おもしろいものです。 さて、青春まっただなかの少年は、物語が進むにつれ、 いやおうなしに経験を重ねていきます。 少年の感覚で言うならきっと、どんどん「汚されて」いきます。 これから六十年もあるんだ。彼の思考は、じぶんの手のなかでばらばらに乱れてしまった。土曜日の夜ごとのいとなみ、そして、それから誕生、子供、習慣、憎悪。彼はテーブルを見わたした。女の笑い声が、まるで敗北のしるしのように聞える。 物語の終盤、彼はこんなふうに感じるのですが、 ここまで来ると読んでるこっちもすっかりその気になって 「振りきれ! なんだかわからんけど、頼むから振りきってくれよ!」 という感じになります(無責任だなぁ)。 そういうところも、ねぇ、青い春でしょう。 ちなみにブライトン・ロックの“ロック”は音楽じゃなくて、 棒状のでっかいキャンディのこと。銘菓らしいです。 (なんせ1938年の作品ですから) しかし、とてもロックな小説でありました。
by reiko.tsuzura
| 2005-02-04 22:52
| 本
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