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『閉じた本』 フィルバート・アデア著/青木純子訳 タイトルに魅かれて、めずらしくサスペンスを読んでみました。 交通事故で盲目になってしまったベストセラー作家が、 回顧録を書くために、口述筆記用助手の青年を雇う。 気難しい作家は、ほとんど世間と断絶した生活を送っていて、 世間で起こるニュースをすべて青年を通して仕入れていく。 だけど、ふとしたきっかけで 作家は少しずつ青年の語る“事実”に疑念を抱き、 それが次第に恐怖へと繋がっていく……というストーリーです。 この小説のなにがおもしろいって、地の文がないんです。 ふたりのセリフだけが、つらつらと並んでいて、 あとは、ごくたまに作家の心の声が挿入されるだけ。 だから読み手は、一体なにが起こってるのかまったくわからない。 嘘をつく青年の意図も、作家がそれをどれほど疑っているのかも。 そして読み進めるうちに、いきなり青年の嘘を聞かされるもんだから、 読者も作家と一緒にぶっ飛ぶしかないんですよ。 どんな嘘かというと、たとえば 「トニー・ブレアはエイズで引退しましたよ」 「ピート・タウンゼントの訃報には驚かれたでしょうね」……とか。 そういう“怒られるぞオマエ!”みたいなことを、しらっと言う。 青年はなんのために嘘をついていたのか。 それはネタバレになるので書きませんが、そんなオチよりも、 ふたりのしらじらしい会話をただ追うだけで楽しめる小説(ノットミステリー)と思います。
by reiko.tsuzura
| 2004-11-21 22:58
| 本
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